みなさんこんにちは、ゆーきゃんです!
いつもはやぎちゃんと交代でブログを書いていますが、今回は前回に引き続き私が「昔のインドではハンセン病とは、ハンセン病患者はどのような存在だったのか」の話をしていきます。
まだ前回のブログをお読みでない方は、ぜひこちらを先に読んでからお楽しみください!
さて前回は、インドの文献における最古のハンセン病の記述を紹介し、当時すでに「ハンセン病は業病だ」という考え方が存在していた、ということを紹介しました。
つまり、ハンセン病と「罪」意識が結びついていたんですね。
今回は、その罪意識がどのように差別と結びついていたのかを、『マヌ法典』の記述から読み解いていくことにします。
何はともあれ、まずは『マヌ法典』の説明から入りたいと思います。
紀元前2世紀~紀元後2世紀の間に成立したと言われている、ヒンドゥー教の法典です。
全編は12章2685章からなり、単なる法律だけではなく、宗教・道徳・習慣に渡る規範を記しています。
さらに、カースト制度(ヴァルナ制)に関する婚姻の規則や、財産の相続、なども事細かく定められています。
つまり、ヒンドゥー教徒にとっての人生の指針とされている重要な法典だということですね。
そんな、ヒンドゥー教徒の規範となる『マヌ法典』において、ハンセン病はどんな形で記述されているのでしょうか?
今回、『マヌ法典』からの引用は岩波文庫の田辺繁子訳、『マヌの法典』(1953年)に依拠します。
『マヌ法典』には、
“惡しき業病を患ふ者”
“この世に於て、惡人は、或は犯したる罪(の結果)により、又或は前(生)に於て犯したる(罪の結果)によりて、相貌の畸形を受く”
という記述があります。
これは、前世または今生で犯した罪の贖罪をしなかった悪人は、身体(または精神)になんらかの障害や奇形をもって生まれる、ということを表しています。
『マヌ法典』では、聴覚、視覚、身体障害や精神障害、奇形、肺病などを持つ者がこの「惡しき業病を患ふ者」として挙げられており、実はこの中には「白癩(ハンセン病の古い呼称) 」や「皮膚病」を患う者も含まれています。
つまり『マヌ法典』においても、ハンセン病は罪という概念とともに語られているということですね。
『マヌ法典』には、
“かく(過去の罪)業の殘餘によりて、白痴、啞者、盲人、聾者、及び畸形者生る。それらは(みな)有徳たる者達によりて輕蔑せらる”
という記述があり、前世の罪による心身の障害を持つ者は差別される対象であったということがわかります。
ハンセン病を患った人も「惡しき業病を患ふ者」とされていたことを考えると、この時代にはすでに社会から差別を受けていたということが推測できますね。
当時からヒンドゥー教徒の規範であった『マヌ法典』にこのような記述があるということが、差別を社会に根付かせる一因になったと考えることもできるのではないでしょうか。
また、同じように『マヌ法典』において差別されるべき存在として記述されていたのが「パティタ」と「シュヴァパチャ」と呼ばれる人々です。
前者は規範を侵犯したことによって共同社会を追放された者のことで、後者は「犬を料理する者」という意味を持つ古代インドの代表的な賤民の人々です。
『マヌ法典』で差別の対象になっている人々は、自己を正常な存在と考える人々にとって「異常」な人々に見えたのでしょう。
古代インドにおいては、ここに差別の根源があったと考えることができます。
ここで気になるのが、なぜハンセン病も含めた心身の障害を持っていることが、「前世で罪を犯したせいだ」とされているのかというところ。
ここからは個人的な考えになってしまいますが、ひとつの解釈としては、これは当時まだ原因のはっきりしていなかった心身の異常に対して、それはかつて自らが犯した罪の報いであると意味づけることによってその事象(心身の異常)について納得し理解をしようとした態度のあらわれだと言えるのではないでしょうか。
また、心身の障害を持つ「異常」な者に対して罪というマイナスの価値をあえて付与することが、悪いものであるということを理由に自己から遠ざけるための言い訳としても機能したとも考えられます。
前回と今回、2回にわたって「古典」という切り口からインドのハンセン病差別を見てきましたが、どうだったでしょうか?
今から約2000年も前に成立した文献に、このようなハンセン病やその差別にまつわる記述が見られるということで、その歴史の長さに驚きます。
インドでハンセン病差別がどのようにして生まれ、社会に根付いていったのかということを考える上でも、非常に興味深い内容ですよね!
ここで話は変わりますが、最後に、8/3に開催される、わぴねすの2018年度活動報告会のお知らせです!
・日時:8/3 14:30~(14:00開場)
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