ABOUT HANSEN DISEASE

臨床としてのハンセン病

ハンセン病は、らい菌(Mycobacteriumleprae)が主に皮膚と神経を侵す慢性の感染症であり、1873年にノルウェーのアルマウェル・ハンセン医師がらい菌を発見して以後、その臨床像が少しずつ明らかにされてきまし た。

 

らい菌の増殖速度は非常に遅く、潜伏期間は約5年といわれています。発症すると、皮膚・皮下組織の中で痛み・温度などを感じて脳に伝える働きのある末梢知覚神経に障害を来たします。未治療や不十分な治療で経過すると、手足や顔面などの変形、視力障害などの後遺症を引き起こします。感染経路はまだはっきりとはわかっておらず、治療を受けていない患者との頻繁な接触により、鼻や口からの飛沫を介し感染するものと考えられています。

 

ハンセン病の原因となるらい菌は非常に弱い菌で、多くの人は自然の免疫があるため、たとえ感染しても発症することはほとんどありません。また、発症した場合でも、早期に治療を開始すれば、後遺症を残すことなく完治します。

 

 

ハンセン病の歴史

ハンセン病は、古くは聖書や日本書紀に記載され、『天刑病』や『業病』と呼ばれ、人類の歴史上最も恐れられてきた病気の一つです。治療法がなかった時代には、感染症であるにもかかわらず、『遺伝病』と考えられ、差別はハンセン病患者の家族にまで及び、故郷を追われて浮浪するハンセン病患者が後を絶ちませんでした。 

 

1873年にらい菌が発見されてからは、発症力が極めて弱いにもかかわらず、『恐 ろしい伝染病』として、世界各国で国を挙げての隔離政策が進められてきました。 その結果、ハンセン病に対する差別・偏見を助長し、ハンセン病患者は社会から 排斥・隔絶されるようになりました。  

 

治療法が確立した現在でも、ハンセン病に対する差別・偏見は根強く、病気が治っても故郷や家族のもとに帰ることができず、療養所やハンセン病定着村に住み続けることを余儀なくされています。 彼らは、就学、就労、結婚などにおいて、現在でも厳しい差別を受けています。

 

 

 

ハンセン病Q&A 

  

 

Q.感染したら隔離しなければならない病気ですか?   

A.いいえ、その必要はありません。

 「らい菌」の病原性は弱く、たとえ感染しても発病することはまれです。 日本では、ハンセン病の医療従事者の方で、ハンセン病を発病した人は今まで一人も確認されていません。このことからも、「らい菌」の 発病力は弱いといえます。だから隔離は全く必要ありません。      

 

Q.ハンセン病はどのように治療するのですか?  

A.現在は、多剤併用療法(MDT)を用いて治療します。

1943年ハンセン病の特効薬であるプロミンという薬が開発されました。現在では、プロミンの他に様々な薬が開発され、これらの薬を組み合わせて使う「多剤併用療法」によって、早期発見と適切な治療により確実にハンセン病は治ります。今、療養所や定着村で生活している人のほとんどはすでに完治しています。      

 

Q.日本ではハンセン病はどんな風に扱われてきましたか?  

A.日本では、世界でも類を見ない強制隔離が行われてきました。

中世や近世の日本では、ハンセン病に罹患した者は仕事ができなくなり、家の座敷牢や離れの小屋で、ひっそりと世の中から隠れて暮らしていました。また、家族への迷惑を心配し、全国各地を浮浪する、いわゆる「浮浪癩」と呼ばれる人がたくさんいました。

 近代になり、外国人の内地雑居が認められるようになると、政府は、日本全国を浮浪するハンセン病患者を文明国にあるまじき恥ずかしいもの(国辱)と考えるようになり、1907年(明治40年)、「癩予防に関する件」という法律を制定し、「浮浪癩」を療養所に入所させ、一般社会から隔離してしまいました。この法律は患者救済も図ろうとするものでしたが、これによりハンセン病は伝染力が強いという間違った考えが広まり、偏見を大きくしたといわれています。

 

1929年 (昭和4年)には、各県が競ってハンセン病患者を見つけだし、強制的に入所させるという「無らい県運動」が全国的に進められました。さらに、1931年(昭和6年)には従来の法律を改正して「癩予防法」を成立させ、強制隔離によるハンセン病絶滅政策という考えのもと、在宅の患者も療養所へ強制的に入所させるようにしました。こうした誤った政策が1996年まで続き、日本ではハンセン病に対する差別・偏見が強固なものとなりました。

 

2009年にハンセン病回復者の人権を回復するために「ハンセン病問題基本法」が制定された現在においても、差別・偏見はなくなったとは言えず、多くのハンセン病回復者は社会復帰ができず、人里離れた療養所でひっそりと暮らしています。      

 

Q.現在、世界のハンセン病新規患者数は年間でどのくらいいますか?  

A. 世界の新規患者数は年間約21万3,899人(2014年/WHO調べ)です。

主な国の年間の新規ハンセン病患者数は、インドで約12.7万人、ブラジルで約3.5万人、インドネシアで約1.7万人などです。